岩波新書『ものの言いかた西東』

作家の黒川博行氏が「いま関西弁で小説を書いているのは、僕か田辺聖子さんくらいでしょう。売り上げを考えれば標準語で小説を書いたほうがいいことは分かっているが、そんなことをしようとは思わない。」と、語っていました。

微妙な感情、細かいニュアンスは関西弁でしか表せないのは、僕がずっと阪神間に居住しているのがその理由かと思っていました。ところがそうでもないようで、言語文化は、まだ大阪のほうが優れているんだそうです。

岩波新書『ものの言いかた西東』(小林隆・澤村美幸)によると

………………………同書より引用………………………………………………………………

 ただ、各章で触れたように、東京と大阪を比較した谷崎潤一郎は、定型性や加工性、演出性などの面で東京は大阪に及ばないという趣旨の発言をしていた。実際いくつかの事例がそうした見方を支持している。これは、今や大阪を凌ぐ大都市となった東京であっても、言語的発想の面では、いまだ大阪ほどには到っていないということを意味する。
 この東京と大阪の差はどこから来ているのか。政治都市・商業都市というもともとの性格の違い、あるいは、流入する人々の出身地のちがいなどは大いに影響がありそうである。
 また、多くの都市に囲まれている大阪に対して、東京が周囲から孤立的であることも関係があるかもしれない。ただ、最も重要な違いは、都市化に要した時間であろう。
 すなわち、東京は、江戸以降の都市化のスピードがあまりにも速かったために、発想法の変化が十分追い付いていない状態にあるのではないか。大阪はそれに比べると都市化の歴史が古く、言語的発想をじっくり醸成するだけの時間が備わっていた。言語的発想法は都市化によってただちに形成されるものではなく、都市環境の変化に呼応しながら長い時間をかけて発達するものと考えるべきであろう。

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関西に住むものとして、ちょっと鼻が高いです(^-^)

ものの言いかた西東 (岩波新書)

ものの言いかた西東 (岩波新書)