小倉千加子「風を野に追うなかれ」(学陽書房女性文庫)

数学キノシタの現在の仕事は、数学を教える家庭教師です。

でも、数学をうまく教えることは仕事全体の1/4のような気がします。あとは、生徒の成長を辛抱強く待つことが、1/4を占めます。

では、全体の半分は何かというと、ちょっと表現しにくいのですが、その生徒そのものを愛する、あるいは丸ごとしっかり肯定することです。なかなか難しいことですが、これが大切なんですね。

家庭教師に限らず、このことは学校の教師にも当てはまるように思います。このこと抜きで上記の両方の1/4も成り立たないように感じます。教育の根底にこれがないと、単なるティーチングマシンでしかありません。

昔、宮迫千鶴・上野千鶴子小倉千加子、この3人が書いていた本をよく買っていました。新鮮な視点、切れ味の良い理論、そして語り口のうまさで読ませます。

今でもたまに読み返します。たとえば古い本ですが、小倉千加子さんの「風を野に追うなかれ」(学陽書房女性文庫)にこんな記述があります。


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    恋愛と情愛と
 
 アメリカでの研究によれば、恋愛の持続期間は短くて半年、長くて二年半である。ロマッチクな陶酔は、死が二人を分かつまで二人に保障されているわけではない。ウォルスターらの定義(1978)によると、恋愛とは他者に強烈に耽溺する状態であり、強烈な生理的喚起(←歓喜の誤り?)の状態を伴う。耽溺性という不安定で非理性的経験性を持つからして、恋愛は何ほどか非続永的なのである。

 それならば、私たちは特定の他者といかにして長期にわたるコミットメント(関与)を維持していけばよいのか。恋愛の強烈で短期的性質に対し、長期的で穏やかなコミットメントは、情愛と呼ばれている。アメリカの社会心理学者ジンバルドーによれば(1977)、情愛の発達は信頼感の発達と正比例する。信頼感は、多くの人々につきまとう拒絶、嘲笑、裏切りなどの恐怖を洗い流す。我々はいかにして信頼の風土を創り出すことができるのか?

 ジンバルドーは言う。「相手が率直に話せるように受容的にせよ」。「あなた自身の率直さで報いよ」。「相手を支持し無条件に受容することを表明せよ。たとえ相手の行動のくつかを否認するとしても」。「あなたの基準、価値、行動などを一貫せよ」「たとえあなたが解決策を持っていない時でも、相手の話に耳を傾け、共感せよ」。「守るつもりのない約束をするな」。

 情愛の出発点は、恋愛の出発点と同じ時期にある。耽溺しつつ、これだけの課題をこなしていかない限り、私たちは永遠に恋をさすらうしかないらしい。

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ここに述べられている<長期的で穏やかなコミットメント>は、私の仕事そのものです。したがって、ジルバルドーの言葉は、まるで私に言われているようです。