小原雅博「コロナの衝撃」(ディスカヴァー携書)

私たちの暮らしに大きな影響を与えている新型コロナ。これに関する出版物が数多く書店に並んでいます。

これらの本の著者の多くは、医療関係者や生物学者など各分野の専門家です。その主張はそれぞれ異なっていて、たとえばワクチンに関しても、「有効である」「無効だ」と意見が分かれます。なかには「ワクチンは危険」と書いている人もいて、われわれ素人は戸惑ってしまいます。

「コロナの衝撃」の著者小原雅博さんは、シドニー総領事や上海総領事を経て、東大で現代日本外交を担当しているいわば文系の専門家です。

この本の中で、中国のコロナ発生時の初動の失敗をこう書いています。


........... 引用 ......................

 この問いに答える上で、香港のウイルス専門家の管軟氏の警鐘が参考になる。
 管軟氏は、SARSの感染源を最も早く特定した科学者であり、米国の雑誌『タイム』で180人の「グローバル衛生ヒーロー」の一人に選出された人物である。

 管氏は1月2日に武漢に到着して視察を始めたが、予定を切り上げて翌21日(ヒトからヒトヘの感染が確認された日)に急遠武漢を後にした。香港に戻って、武漢が封鎖された23日に、ネットで次のように語った。

「私は(武漢を訪れて)逃亡兵になってしまったが、状況はそれほど恐ろしいものだった。(15日ら)春節休みの帰省始まっており、(ウイルスは武漢から全国に広がり)感染規模はSARSの10倍になるだろう。しかし、何らの対策も取られていないため、状況をコントロールすることは不可能だ。」

この書き込みを読んだ中国人から、「香港人は出ていけ!」とか「臆病者!」といった誹謗中傷がネットに溢れた。

管氏の警鐘は、その20日も前に李文亮医師が発していた。そうした専門家の情報を真剣に受け止められなかった結果がどうなったかは前章で論じた通りだ。

人間は都合の悪い耳障りな情報に接したとき、本能的にそれを否定したり、聞き流したりしようとしがちである。それを正すのが権威ある科学者や専門家の助言であり、独立したメディアの正確な報道である。中国の統治 (ガバナンス)モデルにはそれらが決定的に欠けていた。

特に李医師のケースでは、ネットでの批判を超えて、法による制裁にまで及んだ。国民の安全を守る立場にある警察が法の執行者として李文亮医師を処分し、その警告を握りつぶしてしまったところにガバナンスの脆さが窺える。
........................................

権威ある科学者や専門家は誰なのか? 正確な報道をする独立したメディアはどこなのか? それを見極めるのはなかなか難しいですね。