(最終回です)
T先輩、昔を振り返ってこう心境を語っておられます。
『それでも、私は高校で数学ができなかった、という潜在意識というかトラウマ、呪縛からは依然として解放されていない。しかし、 高校時代に数学ができなかったことは、今となってはその後の私の人生には良かったような気がする。』
高校時代、数学ができなかったことがかえって良かったとは! いま数学が苦手な学生に救いの言葉です!
『ところで数学が出来る、とはどういうことか、と考えてみると、どうも数学の「成績が良い」、「良い点が取れる」ということであろう。 けれども、点が良ければ数学が分かったのかというとそれは違うと思う。計算ができればいい、というものでもない。 たとえばものすごくテクニックのあるピアニストが必ずしも、自分が演奏する音楽がわかっているかというと、そういうことは無いように。』
『もう一つ付け加えると、小学校で算数が良くできたから、中学の数学もできる、というものではないし、中学でできたからといって高校の数学ができるわけではない。高校で数学がだめでも、大学の数学は理解できることさえある。思うに高校の数学とは、受験のためのやむを得ない勉強で、入試が済めば無用の科日といったものではなく、もっとしなやかに自由に学ぶ学問ではないだろうか。古代ギリシャ以来、数学者たちが二千年もかけて作り上げたものであるから、一つ一つの定理や公式を、短歌や俳句のように、あるいは名曲のように味わいながら学ぶものと思うが、いかがであろうか。』
テスト前なのに、そんな悠長なこと言ってられません!と受験生からはお叱りを受けそうですが、本質を理解することは案外効率の良い勉強法なのだと思います。
とくに以下の2点は、とても良いアドバイスです。
①定理や公式の証明をきちんとすること。(『私は問題が解けることよりも試験で良い成績を取るよりも、定理の証明に興味があった。』)
②解き方が丁寧に書いてある親切な参考書ではなく、答だけが書いてある問題集を徹底的に考え抜くこと。(『私は数学に没頭した。約10日間家から一歩も出ないで、解答しか載っていない薄い問題集を、わからない問題は3日かけてでも自力で解いた。 ひたすら数学の問題に取り組んだ。』)
いま、私が担当している多くは、数学が苦手であったり、低空飛行が続いるた生徒さんです。なかなか勉強がはかどらず、成績が向上しない状態が続くこともあります。
しかし、今できていなくても、将来伸びる可能性は、このT先輩のようにだれにもあります。だから、いったんお引き受け生徒さんを見込みがないからといって、途中でさじを投げることは今まで1回もありませんでした。これからも、この方針を変えることはないでしょう。